FC2ブログ

地震学と官僚制度の壁

 唯一の原爆被爆国である日本人はアレルギーといわれるほど原子力とか放射能には敏感で慎重である。だから、原発の安全管理には世界で一番慎重なはずである。安全を妨げる事象・要因があれば広く張った鋭いアンテナで探知し、対策したはずである。箕浦教授の研究成果は本人が喧伝するまでもなく鋭いアンテナで察知され、採用されたはずである。我々国民が欲しいのはこのような組織である。

 まず問題点は地震学と称し地震予知を表看板にしている学会が役に立たないどころか、優れた研究を影に追いやる役目を果たすに過ぎなかったことである。プレートテクトニクスという学説は魅力的であり、それを数値モデルとしてシミュレーションするというのは格好が良いが、予知・予測に用いるとなると無力であるだろうということは前項「科学としての地震予知」に述べた。しかし、大地に根差した地質学という地味な分野の研究成果が知られていなかったわけではない。一番理解すべき地震学の看板を背負う者達がその価値をどれだけ理解し評価出来たか。理解しても表看板を背負う立場からそれを十分に活用し主張したかの問題である。

 原発における地震対策、津波対策は、本来なら国が具体的な規制値を法制化するべきである。電力会社の自主規制に任せるとは恐ろしい限りで、もっての他である。法制化するのが当たり前である。チェルノブイリ事故のとき法制化しようとしたが、電力会社の反対に合い実現しなかったそうだ。天下りで利益を共有する「原子力村」という官僚仲間だから、有力な天下り先として利益の供与を受けているから、反対されると法制化出来なかったし、法制化は自分達の利益にも反するという思いもあったのであろう。

 保安院が「寝た子を起こすことはない」と津波対策の進言を門前払いした事実もある。そして、天下りを通じ「原子力村」と呼ばれる同じ官僚仲間だから、保安院を東京電力が真似た。原発事故以来の東電の言説は東電が国の官僚組織の一部であると見做すと恐ろしいほど納得できる。
 我々国民はこのような組織は欲しくない。いや、要らない。 
 
 云い直そう。菅原道真という歴史上の偉大な大官僚からの贈り物を後代の官僚がみすみす見逃したのだ。何という勿体ないことをしたものだ。原発事故がなかったら「原子力村」は甘い蜜を吸い続けられたものを。箕浦教授の研究を採用したら甘い蜜を吸い続けられたのに。彼らは意外に欲がなく浅知恵なのだ。 
  
 もう一つ云い直そう。これは犯罪である。

 だから、これから組織される原子力規制委員会には本来なら罰を受けるべき犯罪者またはその片棒を担いだ人間は一人として入れるべきではない。しかし、官僚の言いなりの首相にはこれを喝破する能力がないだろう。



共同研究などの経緯

 この研究は東北電力女川原発と関係があるらしい。1号機は1984年に運転を開始しているから、タイミングとしてこの研究とは関係なく敷地高さが決められた。女川が津波常襲地であることから計画時社内の検討で敷地高さを15mと決めた。強く主張した社員がいたらしい。なお、福島第一原発の敷地高さは海水面から10mである。

 2号機の申請時1987年に、東北電力から箕浦氏に協力要請があり研究データを提供した。東北電力のグループは同様の内容を地震学会誌に発表したが箕浦氏に事前の了解は得なかったという。仁義に欠ける行動ではあるが、計画の検討に用いたこと、世の中に知らしめる広報の役割を果たしたことの2点から、保安院や東京電力と比較すれば、無視しなかったという点で遥かにプラスに評価できる。かくして、女川原発は東日本大震災で被災せず、津波被災者の避難場所に利用された。それでも、女川原発は震災後津波対策を行っている。 


 この研究は今村文彦教授(東北大学災害制御センター)のチームとの共同研究により大きく発展した。実験や数値シミュレーションなどを加えることで貞観津波の震源域が200kmを遥かに越える長大なものであり、影響範囲は房総に至る可能性も示されていた。

  印象に残るのは、今村教授等がハザードマップの書き換えの必要性を唱え、自ら書き換えていたことである。残念ながらそれが住民に十分浸透する前に大津波が襲来したように思うが、津波の襲来域は書き換えたハザードマップと驚くほど一致している。


科学としての地震予知

 東北大学の箕浦教授は地質学が専門である。地質学は地球の歴史を科学する。歴史を探ることは未来を見通すことに通ず。虚心坦懐に地質学の手法を応用して地球に刻まれた大津波襲来の痕跡を調べることでその周期性を見出し、津波予知の成果を得た。
 
 予知とはいえおおよそ1000年前後の周期、その誤差は不明である。仮に貞観地震から1000年後に大津波が起こったとしたら869+1000=1869年=明治2年に起こったことになる。142年後の昨年大津波は襲来したが、これ位は誤差の範囲であろう。後知恵といわれるかも知れないが、襲来が遅れていた分、より緊迫した状況にあったことになる。

 地震学はGPSや地震計などの計測から情報を集めプレートテクトニクス理論を用いてモデル化しコンピュータシミュレーションをして地震予知をしているように思える。しかしそれらの情報には100年程度の蓄積しかない。素人目にも地球の営みを予知するには歴史的データの蓄積が不足しているように思われる。

 スーパーコンピュータを用いてシミュレーションを行い、有効な成果を得ている分野に気象予報がある。地形、海水面が詳細に明らかで、気圧、風速、風向、気温、海流、海水面温度などの計測網が張り巡らされ、時々刻々計測データが出てくる。だから、シミュレーションの精度が直ぐに検証・評価できる。精度が悪ければ我々の1日単位の生活感覚として直ぐにバレる。

経済予測のシミュレーションについても同様なことがいえる。経済予測は難しいといわれ、思い思い色々なモデルを使い、世界中から多くの予測が出されている。感覚として日単位よりはスパンが長いと思われるが、これも予測精度が月、年の単位で評価、検証できる。 
 
 地震予知は、これらの分野に比べると、予測時間のスパンが桁違いに長い。100年程度では過去のデータとして短かすぎるし、シミュレーションの結果を直ぐに検証する方法もない。即ち評価・検証する方法がないのである。阪神・淡路大震災と東日本大震災は予測されるべき地震であったが、想定外でした、外れていましたというのではあまりにお粗末だし、何よりもそれによる犠牲が大き過ぎる。思い切って言うが、地震学者にいくら謝られても仕方がないのである。

 即ち、予測・予知のシミュレーションが有効なのは、時系列データが継続し、シミュレーションとセットでシミュレーションの精度の評価・検証がなされる場合ではないだろうか。
 この観点からすればこれまでの地震予知の原理自体がおかしいのではないか。文字通り地について調査する活断層や箕浦教授の津波の痕跡調査こそもっと緻密になされるべき方法なのではないか。 
 
 私には地質学などの手法により地球に刻まれた歴史を緻密に読み取り、それを基礎にして予知の精度を上げるのが地震学の立場であるように思われる。地震という言葉が頭にくるからと言って国家の地震予知を背負うには心もとない。
 もっと言えば、地震学会が目指す方向からの地震予知は未来永劫不可能なようにさえ思われる。

 ささやかな私的経験として、工場勤務していた時代、生産工程をコンピュータ制御する目的で様々なモデルを作りシミュレーションを行った経験がある。その妥当性・精度は動いている生産工程ですぐに評価・検証出来たし、それが可能だったからこそ制御(=予知・予測)シミュレーションに意味があったと思っている。  
  
 箕浦教授の共同研究者今村文彦教授のグループが行ったシミュレーションは、貞観地震・津波の裏付けとして、過去に起こったことについて計算したもので、それで完結している。地震・津波の再現数値シミュレーションで、予知・未来予測ではない。このような数値シミュレーションの方法論を否定しているものではない。


続きを読む

予知されていた東日本大震災の大津波


 三代実録は貞観11年5月26日(西暦869年7月13日、東日本大震災の1142年前)陸奥国の国府多賀城城下に大津波があったことを伝えている。海岸より約2.5km(当時)に位置する国府で、1000人を超す死者が出たという。因みに三代実録の主な編纂者は菅原道真である。 

 箕浦幸治東北大学教授(地質学)らの調査研究により、この三代実録の記述が正しいことが実証された。驚いたことに、同規模の大津波が1000年前後の周期で3~4回繰り返されたことも明らかになった。

 大津波は1000年前後の周期で3~4回繰り返し、最後の大津波が1142年前に襲来した。だから、素人でも今にも大津波が来ると判断できる。いつ大津波が来てもおかしくないことが分かる。東日本大震災の巨大津波は予知されていたのである。

 この研究成果は、一般市民を対象とした東北大学の広報誌「まなびの杜」2001年夏号に掲載された。即ち、2001年には素人・一般向けにも知らされていたのだ。なお、この研究は1986年から始められ、専門学会誌に同年から発表され始めた。

 上述より、原発事故は、日本民族の賢者が伝え、我々と同時代の賢者が我々の税金を使い明らかにした、叡知の果実を無視したことが原因の人災である。




プロフィール

 辻 幸弥 (つじこうや)

Author: 辻 幸弥 (つじこうや)
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR